笑う時に、口元を手で隠すのがいつからの癖だったか、もう思い出せません。私の口の中、下の奥歯には、かつての虫歯治療で入れられた銀歯が二本、鈍い光を放っていました。普段は見えない場所ですが、ふとした瞬間に鏡で見えるその存在が、私の中から少しずつ自信を奪っていました。友人とのおしゃべりで大笑いした時、ふと「今、銀歯が見えたかな」と我に返ってしまう。そんな小さなストレスの積み重ねが、私をセラミック治療へと向かわせたのです。決心して訪れた歯科医院で、私は自分の悩みを正直に話しました。先生は私の話をじっくりと聞き、セラミック治療のメリットとデメリット、そして費用のことまで丁寧に説明してくれました。保険適用の銀歯に比べて高額であることは覚悟していましたが、金属アレルギーのリスクがないこと、汚れがつきにくく虫歯になりにくいこと、そして何より自然な歯の色を再現できるという説明に、私の心は決まりました。治療は数回に分けて行われました。まず、古い銀歯を外し、歯の形を整えて型取りをします。この日は仮歯を入れてもらいました。数週間後、私の歯の形と色に合わせて作られたセラミックの詰め物が完成し、いよいよ装着の日を迎えました。治療用の椅子に座り、先生がセラミックを歯に合わせる瞬間は、緊張で息を飲みました。調整が終わり、手鏡を渡された時、私は思わず「わぁ」と声を上げてしまいました。そこにあったのは、銀歯があったとは到底思えない、周りの歯と見事に調和した白い歯でした。どこが治療した歯なのか、自分でも分からないほど自然だったのです。その日の帰り道、私はショーウィンドウに映る自分の笑顔を何度も確認しました。口の中にあった、あのコンプレックスの塊はもうどこにもありません。治療を終えてから、私の日常は少しずつ変わりました。人前で笑うことへの抵抗がなくなり、写真にも笑顔で写れるようになりました。食事の時も、もう銀歯の存在を気にすることはありません。セラミック治療は、決して安価なものではありませんでした。しかし、私が手に入れたのは、ただの白い歯ではありません。それは、長年のコンプレックスから解放され、心から笑える自信でした。あの日、勇気を出して一歩を踏み出して、本当に良かったと心から思っています。