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外科手術でしゃくれを治す顎変形症治療
長年しゃくれに悩み、歯科矯正だけでは改善が難しいと診断された場合、次の選択肢として提示されるのが外科的矯正治療です。これは、顎の骨格そのものにアプローチする根本的な治療法であり、顎変形症という診断名のもとで行われます。手術と聞くと大きな決断が必要になりますが、その方法と効果を正しく理解することで、不安を和らげることができます。外科的矯正治療は、単に手術をするだけではありません。多くの場合、手術前後の歯科矯正を組み合わせた一連の治療となります。まず、術前矯正によって、手術後に正しい噛み合わせが得られるように歯を並べます。この段階では、一時的にしゃくれや噛み合わせが悪化したように感じることがありますが、これは最終的なゴールに向けた準備期間です。手術は、全身麻酔下で口腔外科医によって行われます。しゃくれを治すための代表的な手術法が「下顎枝矢状分割術」です。これは、口の中からアプローチし、下顎の奥歯の後方にある骨を縦に分割し、下顎全体を後方へ移動させる手術です。骨を正しい位置に移動させた後、チタン製の小さなプレートとネジで固定します。顔の表面に傷が残ることはありません。手術後は、数日から一週間程度の入院が必要です。術後しばらくは、顔の腫れや痛み、口が開きにくいといった症状が現れます。食事も、流動食から始まり、徐々に柔らかいものへと移行していきます。このダウンタイムと呼ばれる期間は個人差がありますが、日常生活に戻るまでには数週間から一ヶ月程度かかるのが一般的です。手術で顎の骨格が正しい位置になった後、最終的な噛み合わせの微調整を行うために術後矯正が行われます。この期間は半年から一年程度かかることが多いです。治療の全期間は、術前矯正から術後矯正の完了まで含めると、二年以上に及ぶことも珍しくありません。この治療法は、国が定めた施設基準を満たす医療機関で「顎変形症」と診断された場合に限り、保険が適用されます。これにより、高額になりがちな治療費の負担を軽減することが可能です。外科手術は確かに体への負担も時間もかかる治療ですが、噛み合わせという機能的な問題を解決し、顔貌のバランスを劇的に改善できるという、他にはない大きなメリットを持った治療法なのです。