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しゃくれ治療を終えて始まる新しい日常
長かった治療期間を終え、矯正装置が外れた日。鏡の前で見た自分の新しい口元は、少し照れくさく、そして何よりも晴れやかな気持ちにさせてくれました。しゃくれを治すための治療は、見た目を変えるだけでなく、私の日常の様々な場面に、静かだけれど確かな変化をもたらしてくれたのです。治療を終えて、まず劇的に変わったのは食事の時間です。以前は前歯で食べ物をうまく噛み切ることができず、麺類などをすするのも苦手でした。奥歯で無理やり噛み砕いていたため、食事に時間がかかり、顎が疲れることもしばしばありました。しかし、治療によって正しい噛み合わせを手に入れた今、前歯でサクッとリンゴをかじり、奥歯でしっかりとステーキを噛みしめることができます。食べ物本来の食感や味を、心から楽しめるようになったのです。これは、想像していた以上に大きな喜びでした。次に変化を感じたのは、会話のしやすさです。以前は、下顎が前に出ていることで、特定の音が発音しにくく、滑舌にコンプレックスがありました。早口で話そうとすると、言葉がもつれてしまうこともありました。治療後は、舌の位置が安定し、口の動きがスムーズになったことで、言葉が明瞭になりました。人と話すことへの自信がつき、コミュニケーションそのものが以前よりずっと楽しく感じられるようになりました。そして、精神的な変化も大きいものでした。長年、横顔を見られることに強い抵抗があり、集合写真ではいつも不自然な角度で写っていました。しかし今は、どの角度から見られても気になりません。むしろ、新しい横顔のシルエットを気に入っています。髪をアップにしたり、今まで挑戦できなかったファッションを楽しんだり、小さなことですが、日々の選択肢が広がったように感じます。もちろん、治療が終わっても、美しい歯並びと噛み合わせを維持するための「保定」という新しい習慣が始まります。リテーナーと呼ばれる保定装置を、指示通りに装着し続ける必要があります。これは、後戻りを防ぐための大切なステップです。しかし、この少しの手間は、手に入れた快適な日常と自信に比べれば、全く苦にはなりません。しゃくれ治療は、単に顎を引っ込めるだけのものではありませんでした。それは、食事や会話といった生活の質を高め、心の重荷を下ろしてくれた、新しい人生の始まりだったのです。