企画部に所属する佐藤さん(34歳)は、長年にわたり、月に一度は必ずできる巨大な口内炎に悩まされていました。重要なプレゼンテーションや、締め切りが迫る時期に限って、まるでタイミングを計ったかのように、頬の内側に直径1センチを超えるクレーターが出現するのです。激痛で集中力は削がれ、食事もままならない。そのストレスが、さらに症状を悪化させるという負のスパイラルに陥っていました。市販の薬を色々試しましたが、気休めにしかならず、「自分の体質なんだ」と半ば諦めていました。転機が訪れたのは、あるプロジェクトで心身ともに限界を感じ、ついに会社を休んでしまった日のことです。あまりに大きく、深くえぐれた口内炎に、さすがに身の危険を感じた佐藤さんは、意を決して近所の口腔外科の扉を叩きました。医師は、彼の口の中を診るなり、生活習慣について詳細な問診を始めました。睡眠時間、食事内容、仕事のストレスレベル、そして、彼自身が全く自覚していなかった「夜間の歯ぎしり」の可能性についてです。医師は「あなたの口内炎は、単なる疲れからくるものではないかもしれません。強いストレスと、それによる無意識の食いしばりが、粘膜を傷つけ、巨大化する原因になっている可能性が高い」と指摘しました。そして、炎症を抑える強力な軟膏を処方すると共に、夜間に装着するマウスピース(ナイトガード)の作成を勧め、さらに、一度内科で栄養状態をチェックしてもらうこともアドバイスしました。佐藤さんは、専門家の言葉に衝撃を受けました。口内炎の原因が、口の中だけでなく、自分の生活全体に関わっていることを初めて知ったのです。彼はその日から、自身の生活を記録し始めました。睡眠時間を確保し、外食ばかりだった食生活を見直し、自炊で野菜やタンパク質を意識的に摂るようにしました。完成したナイトガードを毎晩装着すると、朝起きた時の顎の疲れが全く違うことに驚きました。内科での血液検査では、やはりビタミンB群と亜鉛が不足気味であることが判明し、サプリメントでの補充も開始しました。これらの改革を始めて三ヶ月が経った頃、佐藤さんは気づきました。あれほど悩まされていた、でかい口内炎が一度もできていないのです。小さなものができそうになっても、以前のように悪化せず、二、三日で消えていくようになりました。