来週に控えた、長年の友人の結婚式。スピーチという大役を任され、数週間前から原稿を練り、練習を重ねてきました。そんな万全の準備を嘲笑うかのように、式の五日前にそれは現れました。下唇の内側、最も会話で擦れる場所に、じくりと痛む口内炎が誕生したのです。最初は小さな違和感でしたが、翌日にははっきりと白い円を描き、食事はもちろん、話すことさえ億劫になるほどの痛みに変わっていました。パニックになった私は、まず薬局に駆け込みました。薬剤師の方に相談し、即効性と保護機能に優れたパッチタイプの薬を購入。さらに、粘膜の修復を助けるというビタミンB群のサプリメントも手に取りました。藁にもすがる思いで、その日から徹底的な口内炎対策を開始しました。食事はすべて、刺激がなく、柔らかいものに切り替えました。お粥、冷奴、ポタージュスープ、そして栄養補給のためのプロテインドリンク。味気ない食事でしたが、スピーチで言葉に詰まることだけは避けたい一心で耐えました。熱いものは厳禁なので、すべて人肌まで冷ましてから、患部に当たらないよう慎重に口に運びました。夜は、普段より一時間早くベッドに入りました。睡眠が免疫力を高め、回復を早めるという知識を信じ、スマートフォンの電源も早々にオフ。とにかく体を休ませることに集中しました。そして、日中はパッチを貼り続けて患部を保護し、痛みを少しでも和らげようと努めました。しかし、一番の敵は精神的なプレッシャーでした。治らなかったらどうしよう、スピーチの途中で痛みで顔をしかめてしまったらどうしよう、という不安が頭をよぎります。その不安を打ち消すため、私はスピーチの練習方法を変えました。声に出す練習は口に負担がかかるため、頭の中で何度もスピーチを暗唱するイメージトレーニングに切り替えたのです。友人の喜ぶ顔を思い浮かべながら、言葉一つ一つに込める感情を確認していきました。式の前日。口内炎はまだ存在していましたが、ピーク時よりは明らかに痛みが和らいでいました。徹底したケアが功を奏したのか、回復が少し早まったように感じました。当日の朝、最後の望みをかけてパッチを丁寧に貼り、私は会場へと向かいました。そして、私の番が来た時。不思議と痛みは気になりませんでした。