抜歯は歯科治療において一般的な処置ですが、その後にいくつかの合併症を引き起こす可能性があります。中でも「ドライソケット」は、激しい痛みを伴う厄介な合併症として知られています。ドライソケットは、抜歯窩に形成される血餅がうまく安定しないか、あるいは早期に脱落してしまうことで、骨が直接口腔環境に露出してしまう状態を指します。通常、抜歯後の治癒過程では、抜歯した穴に血餅(血液の塊)が形成され、これが骨や歯肉の再生のための足場となります。しかし、この血餅が適切に形成されなかったり、うがいや舌の動き、あるいは喫煙などによって洗い流されてしまったりすると、ドライソケットが発生するリスクが高まります。この状態になると、露出した骨が刺激され、非常に強い痛みを引き起こすだけでなく、感染のリスクも増大します。痛みは抜歯後数日から1週間程度で現れることが多く、通常の抜歯後の痛み止めでは対処しきれないほどの強い痛みが特徴です。また、口臭を伴うこともあります。ドライソケットの発生頻度は抜歯の種類によって異なり、特に下顎の親知らずの抜歯後によく見られるとされています。一般的な抜歯後で約1~5%の発生率ですが、下顎の親知らず抜歯後では最大で30%近くに上るとの報告もあります。ドライソケットの予防は、抜歯後の適切なケアが非常に重要になります。歯科医師からの指示を厳守し、特に抜歯当日の激しい運動や飲酒、喫煙は控えるべきです。また、強いうがいを避けることも血餅の脱落を防ぐ上で重要です。もしドライソケットが疑われる症状が現れた場合は、速やかに歯科医院を受診することが大切です。適切な処置を受けることで、痛みを和らげ、治癒を促進することができます。自己判断での対処は、症状を悪化させる可能性があるので避けるべきです。抜歯後の不快な合併症を避けるためにも、ドライソケットに関する正しい知識を持ち、予防に努めることが肝要です。