ニコチン性口内炎は、痛みがないために多くの喫煙者に見過ごされがちですが、放置することで様々なリスクを伴います。私自身、歯科医として長年患者さんの口腔内を見てきましたが、この症状の軽視が、より深刻な健康問題へとつながるケースを何度も目の当たりにしてきました。ニコチン性口内炎を放置する最大のリスクは、それが口腔がんの前兆である可能性を否定できないという点です。タバコの煙に含まれる有害物質は、口の中の粘膜細胞に慢性的な刺激と損傷を与え続けます。この刺激が長期間にわたることで、細胞の遺伝子レベルでの異常が蓄積され、最終的にはがん化へと進行するリスクが高まります。ニコチン性口内炎の白い粘膜や赤い斑点は、単なる炎症反応ではなく、細胞レベルでの異常な変化が始まっているサインである可能性があります。特に、症状が進行し、白い部分が硬くなったり、潰瘍ができたり、出血しやすくなったりした場合は、より注意が必要です。これらはがんへの進行を示唆する兆候である可能性があり、直ちに精密検査を受ける必要があります。また、ニコチン性口内炎そのものが直接がんになるわけではなくても、喫煙によって口腔がんのリスクが高まっていることは紛れもない事実です。ニコチン性口内炎は、その高まったリスクを視覚的に示してくれる「警告灯」のようなものと考えるべきでしょう。この警告を無視し続けることは、将来の口腔がん発症のリスクを意図的に高めていることと同じです。口腔がんは、発見が遅れると治療が困難になり、顔の変形や摂食障害など、日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。さらに、ニコチン性口内炎は、味覚の変化を引き起こすこともあります。口蓋の粘膜が厚くなることで、味を感じる細胞(味蕾)の機能が低下し、食べ物の味が以前ほど楽しめなくなることがあります。これは、食事の質を低下させ、生活の満足度にも影響を及ぼしかねません。私からのアドバイスとしては、もしニコチン性口内炎の症状に気づいた場合は、決して放置せず、すぐに歯科医の診察を受けてください。
ニコチン性口内炎の放置で生じるリスク